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小川三夫さんのこと [農村だより]

 8月14日土曜日午前

 お盆の休み中は、事務所にひとりで籠もって、たまった仕事を処理していますが、気分転換に

 いろいろな読み物もページを繰ります。

 「宮大工と歩く奈良の古寺」 文春新書

 小川三夫  聞き書き・塩野米松

 2010年7月20日 第1刷発行

 今は亡き西岡常一棟梁の直弟子でいらした小川三夫さんですから、昔から存じ上げていますが、

 久しぶりに書店で見かけて、先日購入しました。

 基本はすべて西岡棟梁にありますが、現場で鍛え上げた人間のみが持つ言葉の力は、小川さん

 も西岡さんといっしょです。

 (77ページから抜書き)

 口伝では『堂塔は寸法で組まず、木の癖で組め』といいます。

 (途中省略)

 癖を見るためには材にして置いておくことが一番いいんです。長く置いておけば癖が出ますから。

 しかし、そう時間がない場合は、見極めて、これはこっちだ、あっちだって、うまく癖同士を抱き合

 わせるようにしてやるんです。

 (抜書き終わり)

 改めて思いますね。時間をかけることの重要さと、性質を見抜く眼を鍛えることの重要さを。

 なかなかそうはいきません。世の中はすぐに成果を求めてきます。

 我々のような酒造業は、「集団の技能」で成り立っていますから、正に「木組み」といっしょです。

 「人を組むこと」、これが酒造技能の本質です。

 時間がかかりますし、かけなければいい技能集団はできません。

 そのことがわからない酒蔵が多いように思います。

 こうして久しぶりに小川三夫さんの言葉に触れると、とても力が湧いてきます。
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お盆休み [農村だより]

 8月12日木曜日午前

 すでに休んでいるスタッフもいますが、会社事務所は明日13日から16日までお休みを戴きます。

 明日からお盆ですね。すでに国道148号線は相当に混んでいます。お墓参りにこれだけの人たち

 が帰省するのですから、日本という国は一族郎党、血縁、家族を大切にするDNAを持っているのだ

 と改めて感じます。

 現代社会は、自由な活動ができる社会ですから、農村で生まれ育っても、そのままそこで一生を

 過ごす人は少なくなりました。先祖のお墓と菩提寺に通うのも大変な時代です。

 
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Road to London [農村だより]

 8月7日土曜日夜

 ちょうど一ヵ月後の今日、9月7日はロンドンのHilton on Park Lane に居る予定です。

 あっという間にIWCの受賞式になるのだと思うと、何だか不思議な気分であるとともに、

 高揚感も感じています。

 田んぼでは、五百万石の穂が垂れ始め、越淡麗の走りの穂がちらちらと見えています。

 五百万石の稲刈りにいない自分を想像するのは難しい。そんなのありかなあ、と思います。

 でも、もう航空券の手配も、滞在先のホテルも決まっていますし、現地での予定も固まりつ

 つあります。

 先日、名古屋に所用で出かけましたが、我々のような「米作りから酒造りまで」すべてを

 一貫して取り組む「ドメーヌ・スタイル」の日本酒の生産者は、まだまだ日本には少ないよう

 で、ワインのネゴシアンのように、その価値を世界に展開しようとしている人たちには、もど

 かしい状態のようです。

 私も、ロンドンで思い切りプレゼンをしようと思っていますが、我々のようなスタイルの酒蔵が

 ある程度の数で存在しないと、世界のマーケットには採用されにくいでしょう。

 若い日本酒の醸造家に期待します。

 どうぞ、原料米に対する真剣な取り組みをされますように。

 「米」は仕入れるもの、という考え方では、到底今後の展開は不可能ですから。

 日本国内の流通に受けて、そこそこ売れていれば満足するようなレベルでは、早晩行き詰る

 ことに気づくべきです。

 日本酒の価値の源泉は、「米」にあり、「産地」にあり、「水」にあるのです。

 それは取りも直さず、「地域」の価値であり、ワインの世界で言う「テロワール」なのです。

 今日の来客との応接の中でも出た話題ですが、日本酒の酒蔵は今後減って行きます。

 日本酒の消費量も減っていますし、今後増加に転ずる予兆はありません。

 しかし、日本酒の価値は少しも減っていませんし、その本来持っている価値の高さを知れば

 目がくらむくらい輝かしいものです。

 日本人が、日本の価値を知らず、稲作を基盤として社会を構成し、文化を育んできた歴史を

 忘れてしまいました。

 その流れの中で、日本酒の生産者が、「米の価値」を忘れ、自らの「醸造技術」に溺れてしま

 いました。

 もう年配の世代に期待するのは無理です。若い世代に期待しましょう。

 日本酒の本質的な価値を、もう一度自覚的に捉えなおし、原点に帰って、「米」について真剣

 に取り組む時期が来ています。

 時代の状況は、日本酒の生産者にとって「追い風」です。このチャンスをつかむのは若い世代

 の醸造家です。

 世界が注目する「日本酒」をつくり上げる、またとないチャンスが巡って来ています。
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五百万石の穂が出た [農村だより]

 7月26日月曜日午前

 昨日の田んぼの見回りで、五百万石の出穂を確認しました。

 金曜日の夕方までは出ていなかったので、恐らく24日の土曜日から出始めたのでしょう。

 2番田んぼなんかすごいですよ。一気に、一斉に出穂しましたから。

 毎年、毎年見続けてきましたが、この穂の出る瞬間の喜びというのは格別です。

 何とも言えずうれしい気持ちでいっぱいです。

 根知谷の自然に感謝。

 スタッフのみんな、そしてすべての関係者に感謝の気持ちでいっぱいです。

 ほんとうにうれしいです。

 ここから先は水管理が重要になります。

 収穫するまで、自分のこの手の中に米をつかむまでは気を引き締めて行きますが、

 まずはこの稲穂を見ることができました。感謝です。
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楽しかったよ、ありがとう。 [農村だより]

 7月25日日曜日午前

 昨日は日帰りで東京へ行って来ました。ものすごく暑いですね、東京は。

 大学を卒業して27年たちますが、サークルの同期が集まったのは初めてでした。

 それぞれに行き来したり、結婚式で顔を合わせたりしていましたが、改めて「同期会」となると、

 今までになかったなあ。

 午後2時から4時までのわずかな時間でしたが、まったく昔どおりの楽しいメンバーで、

 お互い髪が白くなったり薄くなったりで、多少くたびれた容貌にはなりましたが、

 頭の中身はそんなに変わらず、しかし、記憶の鮮明さにおいては驚嘆すべきレベルで、

 学生時代のこと細かな出来事で、いまだに全員が笑えるのですから大したものです。

 幹事は大変で、メンバーは言いたい放題、やりたい放題。ほんとうにご苦労様でした。

 まあ、これに懲りずにまたお世話して下さい。

 何といっても、「東京」は日本一集まりやすい場所ですからね。

 昨日参加できなかった同期のみんなのことも、盛りだくさんに話題に上りました。

 何を話したかは秘密です。

 楽しかったよ、ほうとうに。ありがとう。

 また会おう。
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「米」を理解するということ [農村だより]

 7月23日金曜日午後

 午前中、畦畔の草刈りをしていて、かなり体力を消耗しましたので、ひと休み。

 しかし、田んぼの傍らにいて、ずーっと稲を見ていると、実に多くのことを教えられます。

 自社栽培を始めて8年目ですが、自らの責任で稲を育て、米を生産した者のみが知り得る

 ことがあるのです。

 米作りに師匠と言うのはいないですね。

 最近、心底そう思うようになりました。

 基本的な理論とか、基礎知識というのは、誰かにきちんと教えてもらうべきものですが、

 極めて専門的、或いは、地域の特殊性を理解した上での栽培技術というのは、

 農業の分野、とりわけ米作りに関しては、「あり得ません」。

 なぜかというと、

 それは、「自然が相手だから」ということです。

 栽培技術に関する専門書や篤農家の文章を読んでいても、

 その前提条件、栽培環境、技術的な遍歴など、背景の違いを読み解かないといけません。

 要するに、参考になる場合とならない場合で、かなり大きなギャップがあります。

 だから、「無理」です。

 農業を専ら生業とする者は、「自然」に学び、「田んぼ」に学び、「稲」に学ぶしかありません。

 特定の人物や組織、指導機関に師事しても、到底自分が欲しいと思う栽培技術は与えられ

 ません。

 自らがつかむものです。そう思います。

 どうすれば、根知谷で最高品質の米作りができるのか。

 日々田んぼを回り、稲の様子を窺い、話しかけ、見つめます。

 少しずつですが、見えてきますし、わかってきます。

 根知谷で「五百万石」を極め、「越淡麗」の至高の品質をみてみたい。

 誰も真似できない、根知谷ならではの米作りを我々は追い求めています。

 結局は酒造りと同じことですね。

 私は酒造りに関して、師匠という人はおりません。

 すべては酒が、麹が、もろみが、教えてくれました。

 年数はかかりましたが、誰かに教わったものではなくて、自分でつかみ取りました。

 「米」を知ること。

 「米」に対する理解を深めること。

 それが「酒」を深くします。

 
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2010年産はどうなる? [農村だより]

 7月20日火曜日夕方

 今年の梅雨は平年より早く明けました。

 根知谷は7月16日に梅雨明けしました。

 4月は低温傾向で終始し、

 5月は連休中に暖かい晴天に恵まれましたが、温度はそれほど上がらずじまいでした。

 6月はとても穏やかな天候で、シトシト雨が続いて、気温も高めに経過しました。

 お陰で稲の生育の遅れを取り戻した感じになりました。

 7月に入っても高温傾向が続いて、稲の成長は順調に進みました。

 7月16日以降は、真夏の暑さになって、連日30度を超える気温が続いています。

 稲の姿はすっかりたくましくなり、春の頼りない弱々しさがウソのようです。

 この暑さが続けば、豊作型になりそうです。
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何度も聞いた話 [農村だより]

 7月15日木曜日午前

 子どもの頃から親の話というのは、耳にタコができるくらい繰り返し繰り返し聞いたものです。

 同じ話を繰り返すというのは、大人の癖なのか、ボケなのか、何なんだろうと思いながらも

 仕方なく聞いていたものでした。

 しかし、それが大切なんだと、最近は確信犯的に私も同じ話を繰り返しています。家族や会社の

 スタッフもたぶん辟易しているでしょうが、これなくして大事なことは伝わらないのだと強く思って

 います。

 農作業でも同じですね。ここのところ草刈りを集中的にしているスタッフを見ていて感じるのは、

 同じことを繰り返し繰り返し行なうことの重要性です。

 1年単位の時間の積み重ねが重要です。

 若いうちは誰でもヘタなものです。それは当たり前。

 でも、回数をこなし、年数を重ねるうちに、「身に付いてくる」技能があります。

 身体に入ってくるには、繰り返すこと、年数をかけることがとても大切なのだと痛感します。

 若いうちは、親の言うことなど右から左のように思っていましたが、

 年を取ってみると、案外身体に沁み込んでいるものです。

 こういう風に「技能」も身体に入っていけばいいなあと思っています。

 若いスタッフには、大変な作業の連続でしょうが、

 中堅からベテランにとっては、当たり前のことが大半です。

 いずれ自分がそういう立場や見方ができる年代になった時、そう感じることでしょう。

 組織というのは、絶えずそうやって人材を見守り、見守られて、世代をつないでいくのですね。
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岩澤信夫さんの存在 [農村だより]

 6月16日水曜日午前

 「不耕起でよみがえる」 創森社刊

 を以前に紹介したことがあります。その著者である岩澤信夫さんが、今年の4月に最新刊を

 出されました。

 「究極の田んぼ」 日本経済新聞社刊

 米作りをする農家としても、毎日の食卓でご飯を食べる生活者・消費者としても、大変興味深い

 著書ではないかと思います。

 私自身は、出版されてすぐに購読しましたし、以前からずっと注目していた方なので、その最新

 情報は大変勉強になりました。米作りの方向性を確認するためには欠くことのできないものだと

 思います。

 たまたま東京での会合で、この最新刊の話題がでましたので、改めて読み返してみても、

 やはりすごい内容です。

 日本の農業の根幹を成す「稲作」というものが、第二次大戦後の急激な変化の中で、

 如何に間違った方向へ進んでしまったか、ということを著者は冷静に、しかも論理的に語りかけ

 ます。

 私が「苗作り」から感じる憤激を、岩澤さんは教え諭すようにわかりやすく書いています。

 農林水産省を頂点とする国家権力と、それに迎合する農業学者たち、それに農協という

 バケモノのような巨大組織が、がっちり利害関係を構築している中で、

 どうやって日本の農業の未来を構築していくのか。

 大半の稲作農家が、すでに責任を放棄し権利を放棄している中で、

 これからの若い世代は、何を拠りどころとして米作りに打ち込めばいいのか。

 岩澤信夫さんの存在、その活動の軌跡は、我々にとって数少ない希望の光を灯しています。
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ロンドンで話したいこと [農村だより]

 6月9日水曜日午前

 去る5月18日にIWC(ロンドン)からゴールドメダルの受賞を知らされました。

 コンペティションに出品したのは、「 nechi 2008 」 根知谷産五百万石壱等米です。

 純米吟醸・純米大吟醸部門で4社がゴールドメダルを受賞しましたが、その1社となりました。

 追って文書やメールが届き、今後の予定や受賞酒の提供について、連絡が続いています。

 最大の難問は、9月7日にロンドンで行なわれる授賞式に出席するかどうか、ということです。

 翌9月8日には、ロンドンの日本大使館で試飲会が行なわれたり、

 その夜には、最高級ホテルでゴールドメダルの受賞酒だけでディナーが催されるそうです。

 とても遠くですし、稲刈りの最盛期に突入していますので、調整が大変ですが、

 授賞式において、5分程度のスピーチを許されるとのことで、

 何とかヨーロッパの権威あるコンペティションのど真ん中で、

 日本酒の楽しさや面白さ、その豊かな価値を披露したいものです。

 ワインの文化に勝るとも劣らない「日本酒」の価値とは何か。

 日本人ですらわかっていないことですが、その本来の姿を公の場で詳らかにしたいという

 願望をひそかに抱いています。

 このブログでは執拗に書いていますが、

 日本酒の真価を体現している酒蔵もまだまだ少ない中で、

 酒造技術のみに依拠する、いびつな「日本酒の価値体系」を少しずつでも是正していきたい、

 そんな願いを込めて、米作りから取り組み、産地としての価値、品種の価値、生産年の品質、

 そういったものの「総合的な価値」として「 nechi 2008 」が醸造されていることを

 伝えれれたら、とても素晴らしいことだと思います。

 さて、実際にロンドンへ行けるのかどうか、とても大変な問題です。
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